2011年12月21日

◇ Winny 最高裁判決

 Winny について、最高裁判決が出た。「無罪」。
 これについての私の見解を述べる。

 ──

 最高裁が「無罪」と判決したことで、「 Winny は正しい」とか、「 P2P は正しい」とかの理由で、被告を擁護する見解が出回っている。しかしそれは見当違いだ。

 (1) 開発と頒布

 今回の訴追は、「 Winny の開発」についての訴追だった。で、開発については、「特に悪意がない限り無罪」というのが、最高裁判決だ。
 これは、私も妥当だと思う。開発行為は犯罪ではないからだ。当り前だろう。
 たとえば、青酸カリを製造した人 A がいて、その青酸カリを盗んだ人 B がいて、その青酸カリをコップに入れた人 C がいるとする。ここで犯罪者となるのは、B と C であり、製造者である A ではない。
 Winny の場合も同様だ。研究室で開発したこと自体は、罪にならない。問題は、それを頒布したことだ。開発者である被告は、そのソフトを、盗まれたのならば、何ら罪はない。しかし彼は、それをネット上で、匿名で頒布した。このことが罪となる。(犯罪となる。)
 ところが検察は「頒布」を理由とせず、「開発」を理由とした。ならば、「開発は無罪」となるのは、当然だ。
 で、「頒布」については? 別に訴えられなかったから、有罪でも無罪でもない。いつのまにか時効になってしまっただけだ。
 つまり、被告は、「開発」については無罪であり、「頒布」については時効である。時効であるということは、犯罪性がないということではない。
 なお、悪意についていうなら、悪意をたっぷりもっている人々はいた。実際、「 Winny で著作権違反のし放題」という内容の記事を書いて販売していた出版社もある。こいつらが Winny の頒布もしていたから、こいつらの頒布行為は、「頒布」と「悪意」の両方があり、明らかに犯罪性がある。しかるに、こいつらは野放しだった。
 というわけで、今回の裁判は、「検察の手落ちで犯罪者が無罪になった」というだけだ。「著作権侵害をするソフトは妥当である」という判決が出たのとは違う。

 (2) P2P

 「 Winny が訴追されたせいで P2P の開発が阻害された」という見解もある。しかしこれは、とんだ見当違いだ。実際、Winny 以外の P2P ソフトはたくさん出ている。
 Winny が訴追されたのは、 P2P が理由ではない。「匿名性」だ。つまり、違法な(直権侵害の)発信者の身元を隠蔽する、という特徴のせいだ。この特徴が Winny の特 Winny 以外にも、 P2P ソフトはたくさん出ている。だから、 P2P が大切なら、他の P2P ソフトを使えばいいだけだ。Winny が訴追されても、そのことで P2P 一般の技術開発が停滞するということはありえない。
 とはいえ、現実には、Winny 以外の P2P ソフトはあまり普及しなかった。匿名性をもたない(身元がバレる)P2P ソフトはほとんど普及しなかった。なぜか?  P2P ソフトの主たる用途は、犯罪行為であるからだ。そもそも、無料のネットサービスがあふれていて、いくらでも情報を公開できる時代に、わざわざインターネットを離れて P2P ソフトを使う動機はない。あるのはたった一つ、犯罪をして、身元を隠すためだけだ。
 その意味で、P2P ソフトは、犯罪のためにしか使われていないソフトなのである。大震災があったことで、「 P2P は震災にも強い」なんて弁解を言う人もいたが、大震災のときにもインターネットは別に崩れなかった。崩れたのはケータイや固定電話であって、インターネットではなかった。(ネット上では、ツイッターで震災情報がさんざん流れた。個別の電子メールも流れた。)
 なるほど、P2P には、それなりの技術的な意義はある。しかし、現実には、P2P は「犯罪のためのソフト」でしかない。そのことを無視して、(匿名性ゆえに犯罪に特化した) Winny を弁護するのは、お門違いだ。真に P2P を擁護するなら、「匿名性のない P2P を普及させよ」と語るべきで、「匿名性のある Winny は正しい」なんて語るのは、理屈が通っていない。その屁理屈は、いわば、次のようなものだ。
 「モルヒネは、余命いくばくもない終末医療には有益だ。ものすごい痛みに耐えかねている末期癌患者の余生を改善する。モルヒネはこれほどにも有益なのだ。だから、麻薬密売人である私が、十代の子供たちをモルヒネ漬けにして廃人にしたことは、まったく正しい」
  → (参考画像) 麻薬中毒者の顔の変化

 主に悪のために特化されたものが、たまたま善のために使われることがあるからといって、そのことで悪であることが免責されることにはならない。百人を殺した殺人鬼が、たまたま一つの小さな善行をしたからといって、大きな悪が免責されるわけではない。
 なるほど、Winny は善のために使うこともできる。しかしそれならそれで、善のために使うような P2P ソフトにすればいいのだ。あえて「悪のため」に特化した(つまり匿名性のある)Winny を弁護する必要はない。

 ──

 結論。

 (1) Winny の問題は、「 P2P 」にあるのではなく、「匿名性」にある。
 (2) Winny の被告の問題は、「開発」にあるのではなく、「頒布」にある。

 にもかかわらず、今回の裁判では、「 P2P 」の「開発」をめぐって議論がなされた。こんなことでは、あまりにも見当違いすぎる。
 今回、被告が無罪になったのは、検察が見当違いの理由で訴追したからだ。被告が正しかったからではない。
 簡単に言えば、たとえ青酸カリで人殺しをしたとしても、その訴追の理由が「詐欺」であれば、訴追の理由が見当違いだから、「無罪」になるしかない。しかし、詐欺では無罪になるからといって、青酸カリで人殺しをすることが無罪になるわけではない。……この点、勘違いしないように。

 ※ 今回の被告は、「青酸カリで殺人をした」というよりは、「自分では殺人をしないが、青酸カリをばらまいた」ということに相当する。この場合、「殺人罪」で訴追されれば、明らかに無罪となる。正しくは「あちこちで殺人を招いた」ことが理由だから、「殺人幇助」が罪となる。
 


 【 関連項目 】

 Winny については、これまであれこれと詳しく論じていた。関連項目がたくさんあるので、そちらを見てほしい。
 
  → Winny カテゴリ (サイト内の一覧)
 
 特に、次の項目は重要である。
  → 善玉 P2P は可能か?



 【 関連サイト 】

 高木浩光 氏も、Winny は規制が必要だ、という立場であるようだ。
 Winny等には、名誉毀損等の人権侵害ファイル、個人情報保護に反する流出ファイル等も永続的に流通しており、それらの流通を阻止すべきとする考え方は、児童ポルノ流通の阻止と共通するところではないだろうか。
 (中略)……というほど、その流通阻止の重大性が確認されたと言えるのであれば、Winny等での流通を放置したのではその目的は達成されないのであり、過失を処罰することを検討せざるを得ないのではないか。
( → 2009年07月20日
 論拠の違いゆえ、私とまるきり同じというわけではないのだが、だいたい同じ見解だと言っていいだろう。
 大事なのは「犯罪の被害者への思いやりをもつ」ということだ。この点は、「技術開発と金儲けだけが大事だ」という立場で Winny を擁護する 池田信夫 とはまったく異なる。
  


 [ 余談 ]
 池田信夫は「 Winny 摘発のせいで日本の P2P は大幅に縮小してしまった」という趣旨のことを述べている。だが、それは、残念なことではなく、好ましいことだ。
 なぜか? Winny はネットの回線を莫大に消費するからだ。1割以下の Winny ユーザーが、回線のうち7割ぐらいを占めている、というような報道もあった。
 とすれば、仮に Winny が普及していたら、日本のネット環境はパンクしていたはずだ。あちこちで接続不能状態になり、さらにはバグみたいなトラブルが頻発したはずだ。
 実際、たとえば本日、NTT が負荷の過大( i.e. サーバーの能力不足)のせいで、メールの誤配みたいなトラブルが起こった、と報道された。こういうトラブルが頻出しかねないのだ。Winny が普及してネットがパンクしたならば。
 日本がこれまでインターネットで特にトラブルもなしに来られたのは、Winny が普及しなかったからだ。つまり、検察が摘発してくれたからだ。
 Winny というソフトは、基本的には、時代の流れに即していない(というか有害な)ソフトなのである。たとえ技術的な正当性を部分的に含むとしても、こんなものが普及しなかったおかげで、善良なユーザーはどれほど助かったことだろう。
 いや、そうでもないな。ときどき、ネットの回線が満杯になって、接続不能な状況が起こる。特に、朝の始業時には、そういうことが起こりがちだ。ここでは、Winny の悪影響もあるはずだ。あなたがもし、「この回線は現在、遅いなあ。ときどき極端に遅くなって困るなあ」と思ったら、その責任は、Winny にある、と思ってもいいかもしれない。
posted by 管理人 at 20:06 | Comment(5) | Winny
この記事へのコメント
トラフィック増大の原因は、P2Pではなく、YouTubeなどのリッチコンテンツのストリーミングであるという記事がWebにありました。2007年ごろの話ですが。
また、P2Pはむしろトラフィックを平準化してボトルネックを解消する作用があり、P2Pの利用増加と、P2Pによる効率化のどちらがトラフィックに影響を及ぼしているかはわかりません。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20081203/320644/
Posted by 井上 晃宏 at 2011年12月22日 09:28
Skypeも犯罪のためのソフトですか?
Posted by jiangmin at 2011年12月22日 15:17
>スカイプ

 関連項目の  善玉 P2P は可能か?  を読んでください。

 そもそも、ダウンロード機能もありませんが。
Posted by 管理人 at 2011年12月22日 18:43
> P2Pはむしろトラフィックを平準化してボトルネックを解消する作用があり

 普通のネット回線が Winny に流れる(経路を代替する)わけではなく、Winny は単にその分の伝達量が増大するだけですから、平準化の効果はないでしょう。
 「おやつを食べると食事が平準化されるから、肥満の効果が減る」という理屈で、おやつをどんどん食い足せば、肥満になるばかり。
Posted by 管理人 at 2011年12月23日 00:30
 検察が Winny 開発者を訴追したから、Winny は普及しなくなった、という見解があるが、それは間違いだろう。
 Winny が普及しなかった理由は、暴露ウイルスの危険性が知られたからだ。警察や防衛省でも被害があったことが大々的に報道された。

 開発者が逮捕されたからバグを防げなかった、という見解もあるが、楽観的すぎる。MS-IE や Mozilla だって穴は無数にある。たかが一人しかいない開発者の無償ソフトなら、穴ふさぎは非常に困難だ。検察の問題じゃない。





Posted by 管理人 at 2011年12月23日 00:49
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